イージー・Eとの関係悪化を原因としてNWAを脱退したアイス・キューブ(20歳)が、ヒップホップ業界においても年長者だったパブリック・エネミー(PE)のチャック・D(29歳)に相談したことをきっかけとして誕生した、稀代の傑作『Amerikkka’s Most Wanted』。PEとNWAは、当時、東西各海岸の頂点に君臨しており、それぞれのサウンド(PEのプロデューサー・チームであるボム・スクワッド)と、ラップ(NWAの実質的な“声”であるアイス)がコラボレーションしたのが本作だ。
ボム・スクワッド(BS)のハンク・ショックリーは「もしアルバムがクイーンズやブロンクスのストリートから生まれたようなサウンドだったとしたら、それは本物だとは言えない(からリリースさせるつもりはなかった)」と語っているが、たしかにこのアルバムは、紛れもなく真正のウエスト・コースト・シットだ。アイスが選んだサンプリング・ソースは、“AmeriKKKa’s Most Wanted”で使われたスティーヴ・アーリントンから、粘っこいファンク・グルーヴに包まれる“Once Upon a Time in the Project”でのベティ・ディヴィスなどファンクの比重が高く、さらにアイスが連れてきた旧知の友人であり、NWA以前に一緒にグループを組んでいたサー・ジンクスがプロダクションに関与することで、ボトムを西海岸らしいレイドバックしたグルーヴが貫いている。そして、そのグルーヴに対してBSが、十八番である職人的なサンプリング・コラージュのテクニックを駆使して様々な味付けを施したのが、このアルバムのサウンドの要旨となる。
チャック・Dとマイク・リレーを交わす“Endangered Species”やアルバムの最後の最後で導火線に火を付ける“The Bomb”など、BPMが早く、煽動的で好戦的なビートの曲はBS色が強く出ているが、クルーであるダ・レンチ・モブを召集した“Rollin with the Rench Mob”やタイトル的にも西海岸らしい“Who’s the Mack”など、ミッド・テンポで闊歩するファンク・トラックはやはりアイスのアルバムだと感じさせる。だが、なんにせよ作中最高の曲は、セッションの最初期に完成し、ハンクが「この曲のヴァイブレーションをあと9曲分複製できれば最高のアルバムが作れる」という手応えを感じた1stシングル“AmeriKKKa’s Most Wanted”で間違いない。アイスにとっては、ソロとしてこれ以上ないスタートを切ったヒップホップのマスターピースだ。