ニューヨーク生まれ、ロサンゼルス育ちのMC/プロデューサーであるドレッド・スコットによる唯一のアルバムだが、本国アメリカでのほとんど黙殺された評価に比べると、日本では何度かCDが再発されたりと、人気のある一枚だ。それはひとえに、シングル“Check the Vibe”のおかげだろう。クールなエレクトリック・ピアノのループとハード・ヒッティングなドラムス、大学の同窓であり、後に奥方となるエイドリアナ・エヴァンスのスキャット混じりのジャジーなフックの組み合わせで作られたこの曲は、のちのJ・ディラやソウルクエリアンズにも通じる瀟洒なサウンドで、日本で人気が高い理由もよくわかる。
ジャズがヒップホップにおける主要なサンプリング・ソースとなる前から純粋にジャズにはどっぷり浸かっており、楽器演奏の教育も受けてきた彼だが、「ニューヨークのプロデューサーたちと違って、両親のレコード・コレクションがあるわけでもないから、サンプリングじゃなくて自分の手でやるしかなかった」といった発言をどこかで読んだ記憶がある。そのため、一部サンプリングもしているが、基本は自前の楽器演奏とドラム・マシーン/サンプラーを駆使して楽曲制作を行うタイプで(クレジットにわざわざ「Yes, I do my own beats!」と記載している)、そのジャジーでファンキーなスタイル(ピート・ロックからの影響が大きいようにも感じる)は、当時流行していたジャズ・ラップの波にも乗り、シングル“Back in the Days”はアンダーグラウンドでヒットした。同曲で「グッド・ライフ(カフェ)でラップしたらディスられたけど、二年後にカムバックした時はプロップスを得たぜ」とラップしているように、彼もLAのヒップホップ・コミュニティの聖地グッド・ライフ・カフェには通っていたようで、西海岸らしいレイドバックしたジャズ・サウンドは、フリースタイル・フェローシップやザ・ファーサイドの作品と少なからず相通じるものがある。レーベルメイトのトラジェディ(インテリジェント・フッドラム)が参加した気だるげなファンク“Funky Rhymes”、ホーンの使い方がピート・ロックっぽいシングル“Nuttin ta Lose”、Pファンク濃度高めの“They Don’t Know”、そして完全なジャム・セッション“Frankie’s Groove”はずば抜けて出来が良い。