先日(2020年4月末)、52才の若さにして急逝したスティーゾことスティーヴ・ウィリアムスのデビュー・アルバム。「EPMDのバック・ダンサー」という枕詞とセットで紹介されていることが多いが、EPMDが参加していたラン・DMC主宰の「Run‘s House」ツアーの最中に仲違いし、クビを宣告されてからはMCに転身、故郷であるコネチカット州はニュー・ヘイヴンに戻りデモ制作をしていた。そのデモが、EPMDが当時所属していた〈 Fresh 〉のA&Rであったヴァージル・シムズに気に入られて契約を手にし、皮肉にもEPMDとは短期間ながらレーベルメイトとなる。
スティーゾがヒップホップ・ゲームに残した最大の功績は、このアルバムに収録されている“It’s My Turn”だ。“正規に”リリースされた曲の中で、スカル・スナップス“It’s a New Day”のドラム・ブレイクを初めてサンプリングした曲がまさにこの“It’s My Turn”だった(“正規に”と強調しているのは、実際このドラム・ブレイクの第一発見者はスティーゾの従兄弟のドゥーリー・Oであり、彼はスティーゾより先に“Watch My Move”という曲を作っていたが、後年までリリースされなかった)。さらに、伝説的なエンジニアである故ポール・Cがこの曲のミックスを手掛け、極限まで音を太くし、かつイントロに二小節分のオープンなドラム・ブレイクを挿入するアイデアを提案したことで、スカル・スナップスのオリジナル盤からではなく“It’s My Turn”から直接サンプリングできるようになったため、間接的に“It’s a New Day”は最もサンプリングされたドラム・ブレイクの一つとなった。
アルバム自体は、スティーゾ本人と、クレジットにはないが同郷の幼なじみであるクリス・ロウ、そしてヴィシャス・Vが手掛けている。EPMDに同行して西海岸や南部を巡り、彼らのファンク濃度の高いサウンドが各地で好意的に受け入れられる様を目の当たりにしたことについてスティーゾ本人が言及していたが、“It’s My Turn”におけるジョージ・クリントン“Atomic Dog”のサンプリングはその体験が表出したものだろう。他の曲もスライ・ストーンやクール&ザ・ギャングなどファンクの成分がたっぷりで、そのサウンドは、Pファンク・チルドレンの代表格であるデジタル・アンダーグラウンドのショック・Gが絶賛していたほどだ。「観客が座るなんて絶対ありえねえ(“There’s no way that the crowd can sit down”)」という“It’s My Turn”のパンチラインの通り、終始ファンキーなサウンドで踊らせてくれる、ニュースクール前夜のダンサブルな名盤の一枚。Rest In Beats。