NYらしからぬレイドバックしたグルーヴを押し出したビートとスロウなライム・デリヴァリーで、東海岸に新しいファンクの様式をもたらしたデビュー・アルバム『Strictly Business』から一年経たずにリリースされたセカンド・アルバム。ジェームス・ブラウンのカタログ以外からもファンクの源泉を掘り当てるセンスに対して、本人たちも認めるようにプロダクション・スキルが追いつかず、前作では根城となるスタジオ「North Shore Soundworks」のエンジニア、チャーリー・マロッタの手助けにかなり依存していた。一年足らずで目覚ましい成長を果たし、他のプロデューサーと遜色ないテクニックを身につけてカムバックしてきた彼らだが、それらに加えて本作からは、その後のEPMDのサウンドに欠かせない強力な武器を手にする。
本作の前年となる88年に、ラン・DMCが主催する〈 Run’s House 〉ツアーに参加したEPMDの二人は、同じくツアーに参加していた当時のDJシーンにおける新進気鋭の存在だったDJスクラッチをジャムマスター・Jに紹介してもらう。前作でDJを務めていたK・ラ・ボスとの関係が終わったばかりで、グループのDJを探していた最中だったということもあり、二人は即座に自分たちのDJとしてスクラッチを囲い込むことに決める。第三のメンバーとも語られるスクラッチの雇用は“The Big Payback”だけでもお釣りがくるだろう。JBによる灼熱のダウンビート・ファンクを、その快感を損なうことなく巧みにループしたEPMDのセンスも素晴らしいが、DMCの「ヨォ!」という短い掛け声を切れ味鋭く擦り倒したスクラッチのおかげでますます引き締まったこれは、ヒップホップにおけるミニマルなファンクの真髄だ。
アルバムの幕開けとなるのは、BTエクスプレスとPファンクを齟齬なく繋いだシングル“So Wat Cha Sayin’”で、これもまた“The Big Payback”に並んで、EPMDクラシックとして永遠にそびえ立つ。滑り出し良くスタートしてからは、フェイズ・Oのメロウ・ソウル・クラシックに乗せてデビュー前の苦労を回顧する“Please Listen to My Demo”、MFSBのエモーショナルなガラージ・クラシックを舞台に踊り狂う“It’s Time 2 Party”、どこかマーリー・マールっぽい“Who’s Booty”(今にもTJスワンが歌い出しそうだ)と、中弛みなくカラフルに盛り上げる。終盤にも、2パックの“California Love”と同じジョー・コッカー“Woman to Woman”をサンプリングした、K・ソロのデビュー曲でありヒット・スクワッド誕生の瞬間でもある重量級ファンク“Knick Knack Party Wack”を配置し、全体通して前作以上に素晴らしいアルバムなのだが、エリック・サーモンは「ソフォモア・ジンクス」だとして、本作の出来に納得していないようだ。だが、辛めの自己評価に反して、〈 Fresh 〉とその親レーベルである〈 Sleeping Bag 〉が92年に潰れた際に、〈 Priority 〉が原盤権を買い取った3枚のアルバムのうちの1枚は本作だった(残りの2枚は、EPMDの『Strictly Business』とナイス&スムースの『Nice & Smooth』)。