91年にレコーディング・デビューし、サード・ベースのMCサーチの庇護の元、94年にデビュー・アルバムをリリース、というキャリアを聞いて真っ先に思い浮かべるのはナズだろう。だが、サーチをメンターに、全く同じキャリアを歩んでいたMCがいた。オマー・クレイドルことOCである。彼は近所に住んでいたファロア・モンチと、その相方のプリンス・ポーによるユニット、オーガナイズド・コンフュージョン(OK)の91年のデビュー・アルバム『Organized Konfusion』に収録された“Fudge Pudge”に客演参加することでMCとしてのキャリアをスタートさせ、その後、OKに同行する形で「The Source Tour」のステージに立つ。そのツアーの最中にサーチと出会い、彼のマネジメント会社である「Serchlite」のナズに続く第二号アーティストとして契約を交わすことになる。サーチは自身のシングル“Back to the Grill”のリミックスでOCにマイクを持たせることで業界に彼のスキルを宣伝し、レコード会社と契約交渉をするが、〈 Def Jam 〉からは「クール・G・ラップやラキムみたいだからいらない」と断られる。A&Rのクラーク・ケントが推してくれたものの、ダス・エフェックスのようなヒット性に欠けるという理由で〈 East West 〉との契約もまとまらず、最終的にはサーチが副社長に就任した〈 Wild Pitch 〉と93年に契約し、その翌年となる94年に本作『Word…Life』を発表した。
レコード会社への売り出しと並行して、OCはサーチとデモ・テープを制作していたが、曰く「あのデモ・テープはクソだった」そうで、サーチの代わりにとあるプロデューサーに鞍替えする。そのプロデューサーこそが、本作で13曲中8曲のビートを担当したDITCのバックワイルドだった。OCは先述した「The Source Tour」の最中にロード・フィネスと、フィネスに付き添っていたバックと知り合い意気投合し、ツアー以降も連絡を取り続けていた。「いいビートがあるぜ」と豪語するバックと改めてデモ・テープを作り直し、そこで作った曲はほとんどが本作に収録されることになった。魂を売らないことを宣言する“Creative Control”を終えて、続くタイトル・トラック“Word…Life”へと流れ込んだ時点で醸し出されるソウルフルでジャジーなムードは、フェイズ・Oのソウル・クラシック“Ridin High”を贅沢に用いた“Outtro”まで終始貫き通される。その抗いがたい魅力的なムードは大半の曲を手がけたバックに依るところが大きいが、OCが振り返るには、デモ・テープ制作開始時点ではバックはビート・メイキングを始めたばかりだったそうだ。その割には打率が高く、彼のプロデューサーとしてのキャリアにおいてトップに位置する高水準のビートが並んでいる。特に先述のタイトル・トラック、“O-Zone”、“Born 2 Live”、“Time’s Up”という序盤の流れは完璧だ。
「お前にはミネラルもビタミンも鉄分もナイアシンも足りねえぜ」というオープニング・ラインで始まる“Time’s Up”は間違いなくOCの最高傑作だ。ジェルー・ザ・ダマジャの“Come Clean”やメイン・ソースの“Fakin’ the Funk”と同じ、当時の東海岸のMCたちが語気を荒げて訴えていたアンチ・ギャングスタ・ラップがテーマだが、OCはインタヴューで「(『Word…Life』では)銃やナイフじゃなく、言葉と知性で相手をやっつけることが世界一クールなことだって思わせたかった」と語っており、それを最も表現したのがこの曲だった。「良い作詞家は良い読書家でもある」というモットーを持つ母に教育を受け、書物を栄養にたっぷりの語彙や思想を脳にたくわえた彼は、母に与えられた小説や詩集と同じくらいラキムなどの先達の音楽と歌詞に没頭してきたという。血気盛んな“Time’s Up”はビッグ・ダディ・ケインとクール・G・ラップのミックス、“O-Zone”はラキム、“Costables”はKRSワンからの影響が色濃く反映されているが、中でも頭一つ抜け出ているのは、ストーリーテリングが妙の“Ga Head”で、曰くスリック・リックのストーリーテリングを自分なりに解釈してみたものだそうだ。こういった影響源やキャリアにおいて数多くの共通点を持つOCとナズだが、本作には“Mega Hard”という二人の共演曲が収録される予定だったという。ナズがレコーディングに現れなかったので実現しなかったが、そんな二人の共通点を最後にもう一つ挙げると、どちらもデビュー作で両親をゲストに招いていることだ。ナズは“Life’s a Bitch”で父であるオル・ダラにトランペットを吹いてもらっているが、“Ma Dukes”で見事なクルーンを聴かせてくれるのはOCの母親だ。